ヘンダーソン空港
午前7時15分、迎えのマイクロバスに乗る。行き先はラスベガス北部にあるヘンダーソン空港。
昨日は終日ドライブのあとサンバ・グリルで遅くまで呑んでいたので睡眠時間は4時間足らず。でも、午前7時とは思えぬ強烈な陽射しで否応なしに覚醒してくる。
一般的に「グランドキャニオンに行く」とは、グランドキャニオン国立公園内にあるサウスリムを訪れることを指すようだ。しかし、今回のツアーの目的地はウエストリム。
そこはサウスリムからだとコロラド川の遥か下流(西)へ130kmほど離れたインディアン居住区内にあって、ラスベガスからの距離も近い。でも、渓谷の幅や絶壁の高さなどは本家の2/3程度らしい。言うなれば「なんちゃってグランドキャニオン」だが・・・。
「どーせなら、あまり皆が行かないところに行きたい」
これがウエストリムを選択した理由のひとつ。実際、今日は「社員ご一行様サウスリム行きツアー」が組まれていた。
ヘンダーソン空港はラスベガスの中心部から北に30分程いったところにある小さな空港。今回のツアーの使用航空会社はエア・ベガス社。マイクロバスを降りて、滑走路脇の建物の中へ。
カウンター・待合室・売店・トイレがあるだけで、航空会社のターミナルというよりは、小さな開業医のような感じ。さて、同じ飛行機に乗るメンバーは以下の通り。
・私とあこ
・中年夫婦と、その添乗員の女性
・若い男性2人組
・若いカップル
以上の4組は日本人。
・黒人の亭主と白人の奥さん
・バス運転手兼ガイドの初老の男性
彼等はアメリカ人。ちなみに「ガイド」とは言うものの彼は日本語が話せない。だからその後の道中、ガイドが話す内容を通訳して中年夫婦に聞かせる女性添乗員の発言に耳をそばだてるシーンが増えることとなった。
カウンター脇で体重測定を行ない搭乗券を受け取る。搭乗券はボール紙で出来た簡易なものだ。駐機場にはカメラマンが待機していて、出発前にクルーと一緒に飛行機の前で記念撮影をする。でも、実際に乗るのはこの機ではなくて別の機体。これは撮影専用機なのだろうか?
機内から
尾翼の真下から吊り下げられた赤い棒で機体の傾きを確認しながら、左右バランスよく座席を振り分けられる。なぜか、私とあこは最後列となる。
「ビィ~ン」とプロペラが音をたてて機は走り出す。ガタガタとした震動はバスの様だ。ジェット旅客機のようなGは感じないが、思っていたより加速が良い。短い滑走距離で、ふわっと離陸した。
初めて乗る小型機。乗員は2名。乗客は2席8列の15人乗り(扉部分には座席が無い)。幅は乗用車とあまり変わらない感じ。よく乗るジェット旅客機と違って窓が大きいので、狭い機内でも圧迫感はない。エンジン音が壁を通して響いてくる。大声を出さないと機内での会話は不可能。
飛行機は、窓の外の景色が見やすいように右へ左へと緩やかバンクをつけ、S字飛行をしながら進んでいく。ヘッドホンでは日本語の解説が聞くことが出来る。飛行機はミード湖とコロラド川に沿って飛びつづける。気流により時々揺れるが、思ったよりもずっと快適で、恐怖感は無い。
急降下
ヘンダーソン空港を出てから約40分、台地の上の巨大な細長い四角い板の様に見えるウェストリム空港に到着。事務所の様に見える小さなターミナル。カウンターは売店と喫茶スペースのレジを兼ねており、スタッフはインディオ。
ターミナルを出てすぐ目の前にあるヘリポートへ移動。1機のヘリがメンバーを渓谷の下へとピストン輸送するらしい。
第1陣は、私とあことアメリカ人夫婦。本来このヘリは操縦士込みで6人乗りなのだが、なにしろ同乗の夫婦がデカイ!旦那は100kg以上ありそう。奥さんさらに大きく150kg位に見える。なにを食べたらこんなに体格になるのやら。
最初は私とあこの2人が前席に座り、夫婦が後席であったが、どうもバランスが悪いらしい。奥さんが前に、旦那と私とあこが後席に座ることになる。
ヘッドホンをしていても、それを通してローターの爆音が耳に響いて来る。
ヘリはフワッと離陸し、続いて前のめりになってゆっくりと渓谷の方へと進んで行く。ところが、断崖にさしかかると、ヘリの挙動は急激に変化。いきなりバンクを付けたかと思うと、谷底に向かってダイブを開始。体が座席から浮き上がる。慌ててシートベルトを締め直す私。
約1000mの落差。ヘリは断崖の切れ目を壁スレスレで急降下。パイロットは意図的に激しく左右にバンクさせてアクロバットな飛行をしている。映画の中のような体験は大興奮。
「ダダダダッッ」
と両手でマシンガンを撃つ仕草をしながら奇声を挙げるのは私の隣に座る黒人の旦那。実に陽気。そして私とハイタッチ。
やがて目の前にはコロラド川が迫ってきた。
飛行時間にして5分も無かっただろう。断崖の下のコロラド川のほとりの小さなヘリポートに到着。
ヘリポートといっても、辛うじて1機が着陸できるだけのサイズで、3m四方くらいしかない。四角い土俵ってイメージだ。ローターの風で砂ぼこりが舞うなか、扉を開け、手で頭を抱えながらヘリから離れる。
コロラド川下り
我々4人を降ろすと、即座に轟音と砂ぼこりを残して飛び去っていくヘリコプター。立っていると物凄い風に吹き飛ばされそうになる。
ヘリポートから数10歩ほど斜面をくだったところがボート乗り場。背後には1000mもある断崖がそそり立っている。陽射しが強くて肌がジリジリするが、川の流れが近いので心地良い風が吹いている。
第2陣、第3陣が到着するまで休憩所で待つ。
しばらくすると、ヘリが第2陣を乗せて遥か1000m上空の峰の端から豆粒のような姿を見せる。さっきと同じようにダイブを開始。
初めは小さかった爆音が、谷をこだましながらだんだんと大きくなってくる。きっと、機内はさっきの我々同様に大騒ぎなのだろう。
ヘリは一旦その姿を山陰に隠したあと、コロラド川流方向の絶壁の向う側から不意に姿を現わした。
ヘリが3往復して運んだ11人がボートに乗り移る。
インディオの彼が操縦するボートは縄を解かれ、小さな桟橋を離れた。やがて、「ヴィーン」と軽いエンジン音を立て、ゆっくりとコロラド川をさかのぼり始めた。
小さなボートは小さく揺れながら穏やかな水面を進んで行く。
両側には険しい断崖が続く。大渓谷を創造したコロラド川の流れは、周囲の景観とは対照的にとても穏やかだ。水際には周囲を取り囲む茶色や灰色の渇いた断崖と対照的な、あおあおとした植物が葉を茂らせている。
ガイドのインディオが言うには、そそり立った峻険なこの断崖には野生のヤギが生息しているとのこと。朝夕には、この水際へ下りて来て植物を食べ、水を飲む姿が見れるのだそうだ。
ヘリで一緒だった夫婦の隣りに座る。大きな彼らのせいで、気のせいかボートが傾いている感じ。
旦那の方は米海軍の兵士で、サイディエゴの基地にいるとのこと。してみると、ヘリ上でマシンガンを撃つ仕草も、実は単にはしゃいでいたので無くて、職業がら血が騒いだのかも知れない。
異様な存在感を放つこの夫婦だが、実はとても仲が良くて楽しそうにしている。そう言えば往復の飛行機の中でも、カタガタと揺れるたびに通路を挟んで手を握り合ったりしてたっけ。
ゆったりと流れる景色と、水の流れる音を聞きながらの川下り。アメリカの大自然の雄大さを肌で感じることが出来る。
これが国立公園の中にある「サウスリム地区」だったとしたら、ヘリコプターの飛行やボートでの川下りなどは特別な許可無しでは出来ない。
ましてはコロラド川沿いに「ヘリポート」や「桟橋」を造ることなどは厳しく制限されているらしい。「見る」ではなく「体感する」グランドキャニオンはウェストリムならでは。
ボートはエンジンを止め、今度はコロラド川の流れに漂うように川面をくだり始めた。
グアノポイント
のんびりとした川下りは終了。再びヘリコプターに乗る。組合せメンバーは往路と同じでネイビー夫婦と我々。やはりポジションも往路のときと同じ。
乗り込むとすぐに離陸。ヘリは断崖のすぐ側をほぼ垂直に上昇して行く。
性能的なモノなのか?それとも乗っている我々が重いのか?上昇のスピードは実にゆっくりゆっくりとしている。往路の落下するような動きとはあまりにも違う、じれったいほどの遅さ。地球の引力を実感する。
しかし、おかげでじっくりと景色を眺められる。それに、写真を撮ったりするには丁度よい。
やがて、コロラド川の流れがはるか足下に遠ざかると、テーブル上のグランドキャニオンの台地上に出る。ジワ~ッとした動きだったヘリも、ようやく機動性を取り戻し、低空飛行で滑るように進んでいく。
ウェストリム空港からはバスでの移動。運転手兼ガイドの初老の男性が、ハンドルを握りながら英語で解説をしてくれている。しかし、残念ながら、そのありがたさを享受できるのは多少は英語が出来るらしい若い男性2人組と、ネイビー夫婦だけ。私には全くヒヤリングできなかった。
乾燥した大地を進むこと10分程度で、ウェストリム最大の展望地「グアノポイント」に到着。ここで昼食&自由時間となる。
雄大な景色を見る前に、まずは昼食タイム。連れて行かれた建物内で、インディオがよそってくれるランチを受け取る。メニューはいわゆるプレートランチ。タコスの皮にいくつかの具をトッピングする。それを持って外へ。
さて、どこで食べよう?
建物周辺には木製のベンチとテーブルが多数点在していて、この容赦なく照りつける太陽の下で食事するのだ。
暑いのは同じだから、どうせなら一番景色の良さそうなところにしよう。
私の感覚では、極力断崖に近いほど良い席だと思うのだが、これは多数派では無いらしく、そうゆう場所に限って空いている。ラッキー!
断崖に近いテーブルのなかでも、もっともギリギリのところを探す。徐々にグランドキャニオンの全貌が見えてくる。
こりゃ凄いな。柵などは一切ない。テーブルの2m先は、いきなり1000m級の断崖だ。幾万年の時間が刻まれた乾燥した茶色い絶壁。それと対照的に岸辺に緑をたたえたコロラド川がゆるやかなカーブを描いて峡谷の向うへと続いている。
そんな雄大な目の前に広がるグランドキャニオンを見ながら食事開始。
開放感と緊張感が同居するという何とも不思議なシチュエーションでの食事など滅多に出来るもんじゃない。心ゆくまで堪能しよう。
食器類はプラスチック製の簡易なものだが、料理の味は悪くない。しかし、暑さによる過剰な水分摂取に寝不足も加わり、あまり食欲が無い。よそってもらった分はなんとか完食したものの、どうやら夏バテしてしまったらしい。
小さなテントの下では、おみやげが売られている。近くには、コックの付いた据え置き型の大きな水筒が置かれて、これにはレモネード(無料)が入っている。
ここで、ベガスに到着以来、1度も見ることがなかった「虫」の姿を発見。水筒の周囲には、レモネードを求めて蝶やハチが飛んでいる。彼等は枯れた植物しか見えないこの砂漠のどこに住んでいるのだろうか?
持参した水筒にレモネードを詰めたあとバスに乗る。夏バテ気味の体に酸味と炭酸が心地良い。
バスの車内、サンディエゴ基地の彼とガイド兼運転手の初老の男性は意気投合し、妙に盛りあがっている。我々日本人はほったらかし。もっとも、彼の英語でのガイドを理解できる客は他にいないのだから、特に不便もないのだが・・・。
どうやらガイド氏も元海軍兵士らしい。ウェストリム空港に着くと、小さなターミナル内で2人は一緒に記念撮影をしたりしていた。
一路、ヘンダーソン空港へ。往路と異なりバンクを付けた遊覧飛行ではなく、一直線にラスベガスへと向かう。速度も往路より出している様だ。約30分、あっという間にヘンダーソン空港に到着。
ヘンダーソン空港から、送迎バスで「トレジャーアイランド」へと戻る。
まだ、夜のパーティまでは時間があるので、隣りの「ミラージュ」へ行き、熱帯雨林を模した明るい太陽の光が指し込むフロアの一角にあるカフェに入る。ここでトロピカルジュースでも飲んで一休みしよう。
しかし、赤いミニドレスを来た金髪のウェイトレス達は、いつになってもオーダーを取りに来てくれない。しかたなく手を挙げる私。しかし、明らかに気が付きながら、なかなか接客してくれず、不愉快な思いをする。
プレスリー
ホテルの大きなバンケットで催された「記念パーティ」。着席&バイキング形式である。ここで初日の到着以来、初めて子会社チームが勢ぞろいして互いの3日間の情報交換。
部屋で読書、今日は会社のツアーで「グランドキャニオン・ノースリム」に行ったというU岡さん。感動的な景色だったとのこと。
ホテル巡りとカジノ巡りのO河さんとK下部さん。O河さんの奥さんは、O河さんの荷物にこっそり5万円をお小遣いとして忍ばせてくれてあったそうだ。ええ話や。
フリーパス(1日乗車券)で路線バスに乗りまくっていたというY中さんは「アラブ人に間違われた」と憤慨している。どこか建物に入るたびにセキュリティーに止められたそうだ。そこで日本のパスポートを見せると、
「ニホンジンデスカ!と驚くんですよ。失礼ですよね!!」
地黒、短髪、細身、不精ビゲ、サングラス、大きなデイパックというY中さん。爆弾を背負った自爆テロ犯に間違われてしまったのも無理ないであろう。
さて、ゴルフコンペの表彰の後は、プレスリーとマリリン・モンローのそっくりさんが現れた。
マリリン・モンローは各テーブルを回って愛想(色気?)を振りまき、プレスリーはステージに上がり彼のライブが始まる。このプレスリー、見た目も良く似ていてカッコイイが唄もうまい。予想に反して、ライブはなかなかの盛りあがり。
特に50歳以上の世代は大喜びしている人が多数。
私は「プレスリー世代」ではないけれど、今回の旅行の少し前にNHKのBS放送で「プレスリー特集」を両親と一緒に見る機会があった。そのとき「プレスリーって結構カッコイイな」と思っていた矢先だったから、この「なんちゃってプレスリー」にすっかり影響されてしまった私。
帰国後のことだが、「プレスリーBEST」のCDを購入。